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前橋地方裁判所 平成8年(ワ)381号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  原告の請求

1  被告らは、原告に対し、各自金五〇万円及びこれに対する平成八年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告桜井伸一は、原告に対し、別紙(二)記載の謝罪広告を上毛新聞社発行の上毛新聞に、見出し、記名、宛名は各明朝体一二ポイント活字をもって、本文は明朝体一〇ポイント活字をもって、一回掲載せよ。

3  被告黒岩信忠は、原告に対し、別紙(三)記載の謝罪広告を上毛新聞社発行の上毛新聞に、見出し、記名、宛名は各明朝体一二ポイント活字をもって、本文は明朝体一〇ポイント活字をもって、一回掲載せよ。

第二  事案の概要

本件は、草津町から訴外財団法人草津町開発協会(以下「訴外協会」という。)に対して支出された草津高原ゴルフ場の林帯整備事業費(以下「林帯整備費」という。)について、同町議会でその流用や会計処理が問題となっていたところ、同議会議員である被告らが新聞記者らに対し、訴外協会の行った林帯整備費の流用が理事長であった原告による横領、背任等の犯罪行為によるものであったかのような印象を与える発言をし、これが新聞紙により報道されたことにより原告の名誉が毀損されたとして、原告が、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償と名誉回復の措置として謝罪広告を求めた事案である。

なお、原告は、前記第一(原告の請求)のとおりの裁判を求め、請求原因として後記二1(原告の主張)のとおり、別紙(一)記載の名誉毀損行為を前提とする不法行為に基づく請求をしていたところ、平成八年一一月八日に被告ら代理人に送達された同日付けの準備書面をもって、別紙(四)(訴えの変更申立て)記載のとおりに請求の趣旨及び原因の変更を求め、別紙(五)記載の名誉毀損行為を前提とする不法行為に基づく主張をするが、右変更の実質は、訴えの一部取下であるところ、被告らは、同年一二月一三日の本件第四回口頭弁論期日において、「訴えの変更については同意しない」旨陳述し、右訴えの取下に異議を述べたものとみられるから、右取下は、その効力を認めることができない。

一  争いのない事実等(証拠により容易に認定できる事実を含み、当該証拠等を括弧内に掲記する。)

1 訴外協会は、草津町の開発計画に則り、市街地及び周辺地帯のそれぞれの地域の特性に応じた開発を図るため、必要な土地の確保、造成及び施設の建設整備並びにこれらの施設等の管理運営を図り、もって町民生活の向上と町勢の発展4ために貢献することを目的として設立された財団法人であり、同協会には、会長として草津町長が就任しているほか、草津町総務部長、同事業部長、同企画課長等が理事ないし監事として就任している。

2 原告は、平成元年四月、訴外協会の常務理事に就任し、平成三年三月から平成八年二月まで同協会の理事長を務めていた者であり、被告桜井伸一(以下「被告桜井」という。)は、昭和六二年四月三〇日、草津町議会議員となり、平成七年当時、同議会のスキー場対策特別委員会委員長であった者、被告黒岩信忠(以下「被告黒岩」という。)は、昭和五八年四月三〇日、同議会議員となり、平成七年当時、同議会の総務委員会委員長であった者である。

3 草津高原ゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)は、群馬県企業局(以下「県企業局」という。)が建設したゴルフ場であるが、県企業局はその管理運営を草津町に委託し、草津町はそれを訴外協会に再委託していたところ、県企業局は、本件ゴルフ場内の林の中にある潅木や雑草の除去のため林帯整備事業を実施すべく、草津町との間で林帯整備業務委託契約を締結し、草津町は、平成二年度から平成六年度にわたって、右事業を訴外協会に委託するとともに、右契約に基づき、県企業局から支払われた委託料(林帯整備費)を訴外協会へ支払ってきた。

4 草津町及び訴外協会は、林帯整備費について、いずれもその一部を除き予算に計上せず、訴外協会においては、これを簿外処理をした上、打ち合わせ費用、理事や職員の研修費、接待交際費等に流用し、これらを決算書にも記載していなかった。

5 原告は、少なくとも平成三年春ころ、林帯整備事業を担当していた訴外協会事業課長の安斉正男(以下「安斉課長」という。)に対して、特に接待交際費(飲食費等)に係る領収書等に限る旨を明示することなく、領収書等の関係書類の廃棄を命じ、安斉課長は、以後、林帯整備事業に係る工事関係の領収書等や流用に係る領収書等の関係書類の大半を廃棄してきた。

6 草津町議会は、平成七年七月三一日、草津町及び訴外協会における林帯整備費の会計処理等の問題について全員協議会を開催したほか、同年八月四日に開催された臨時会において、「開発協会調査特別委員会」(委員長被告黒岩、副委員長被告桜井、以下「調査特別委員会」という。)の設置を決議し、同委員会は、右同日から同年九月二九日まで一四回にわたって開催された。

7 平成七年七月三〇日発行の産経新聞群馬地方版には、「県企業局予算を不正流用?」との見出しの記事中に、被告桜井の発言として「百条委員会での調査結果次第で、議会が理事長や会長の懲戒免職を要望することは十分ありえる」との記載が、同年八月一日発行の読売新聞群馬地方版には、「草津の工事費不正流用」「八三〇〇万円、町予算に計上せず」などとの見出しの記事中、発言者を特定しないで「甲野理事長が議会の独自調査が始まった先月、領収書など工事関連書類の処分を部下に命じていたことも明らかになった。」との記載が、また、同月一八日発行の読売新聞群馬地方版には、「草津の整備費流用」「町開発協会甲野理事長参考人喚問」などとの見出しの記事中に、被告黒岩の発言として「流用は明らかに作為的な不正であり、(実態は)思ったよりひどいものだ」、「流用金総額は(すでに判明している)約千八百三十万円より、さらに増えることになると思う」との記載がそれぞれある。

二  当事者の主張

1 原告の主張

(一) 原告は、平成三年ころから、林帯整備費の流用が手続的には問題があると気付いていたが、それが企業努力により捻出されたものとみることができること、訴外協会における林帯整備費の管理を群馬県からの出向職員である安斉課長が行っていたこと、流用された林帯整備費の使途も研修費等の訴外協会の経営向上のために充てられていたこと、また、訴外協会の役員には、会長として草津町長、理事ないし監事として草津町総務部長、同事業部長、同企画課長らも就任していたところ、林帯整備費が予算化されていないことや流用されていたことは、訴外協会の決算書から明らかであったのに、右理事や監事、草津町からも何ら指摘を受けることがなかったことなどから違法性がないものと考えていた。

(二) 右のとおり、訴外協会における林帯整備費の流用は、原告が私的に着服したものではない上、意図的な不正行為でもなかったところ、被告らは、別紙(一)(被告らの名誉毀損行為)記載のとおり、新聞記者らに対し、原告が横領や背任等の犯罪行為を行ったかのような印象を与える発言(別紙(一)のうち、<2>及び<3>記載の発言は、被告らの共謀に基づく発言である。)をして、新聞紙により報道されたことにより原告の名誉が毀損され、原告に著しい精神的苦痛を与えた。

右精神的苦痛を慰謝するためには、被告らが原告に対し、各自金五〇万円を支払うべきであるし、かつ、名誉回復の措置として謝罪広告をするのが相当である。

(三) よって、原告は、被告らに対し、名誉毀損による不法行為に基づき、それぞれ第一(原告の請求)記載のとおりの判決を求める(なお、前記のとおり、原告は、請求の趣旨及び原因の変更を求め、請求(訴訟物)については、これが訴えの取下に該当し、その効力が認められなかったものであるが、請求の原因(請求を理由あらしめる事実としての主張)については、従前の主張が撤回されたものとみる余地もないではない。しかしながら、請求の変更(訴えの取下)に至らなかったことからすれば、従前の主張も維持されているものと解するのが相当であり、これを前提に検討する。仮に、従前の主張が撤回されたものであるとしても、本件結論に影響はない。)。

2 被告らの主張

(一) 被告らが別紙(一)記載の各発言をしたことはなく、被告らに名誉毀損行為は存在しない。

(二) 仮に、被告らが別紙(一)記載のとおりの各発言をし、それらが原告の名誉を毀損したとしても、次のとおり不正行為責任を負わない。

(1) 被告らは、草津町議会議員ないし調査特別委員会委員長としての立場で、その職務行為ないしは職務行為の一環として発言したものであるから、草津町が国家賠償法上の責任を負うことがあるのは格別、被告らが原告に対して損害賠償責任を負うことはない(最高裁昭和四七年三月二一日第三小法廷判決・判時六六六号五〇頁参照)。

(2) 被告らの別紙(一)記載の各発言は、いずれも公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものであって、かつ、摘示された事実が真実であるか、又は、被告らにおいて真実であると信ずることに相当の理由があったから、違法性ないし責任が阻却される。すなわち、被告らの右各発言は、いずれも草津町の予算執行という公共の利害に関する事実に係り、かつ、その疑惑を解明するという公益目的に出たものであって、別紙(一)<1>記載の発言内容は、事態の当然の推移を予想したもので真実というほかないし、別紙(一)<2>及び<3>記載の各発言については、原告が安斉課長に対し、林帯整備事業の工事費や関連費用の領収書等の入った封筒内の資料の廃棄処分を命じ、安斉課長がこの命令に従ってこれらを廃棄したことが草津町議会の全員協議会や調査特別委員会等の審議によって明らかとなっていたから、たとえ原告において、封筒内に工事費等の領収書が入っていると思わないで、接待交際費に係る領収書のみを廃棄させる趣旨で処分を命じたと弁解していたとしても、原告は訴外協会の最高責任者であり、職員から確認を求められた封筒内の資料について、その内容を確認もしないで廃棄を命じたというのは余りに不自然であり、到底信用できるものではないから、右弁解を信用しなかったことに正当な理由があり、別紙(一)<2>及び<3>記載の各発言のとおりの事実を真実と信ずることに相当の理由があったというべきである。また、別紙(一)<4>記載の発言については、原告自身も調査特別委員会で流用の事実を認め、実際、林帯整備費が旅行や接待に流用されていたことが判明している。

(3) 仮に、被告桜井が別紙(一)<1>記載のとおり発言したとしても、その発言内容は、単に事態の推移を予想したもので原告の名誉を毀損するものではない。

(4) 仮に、被告桜井が別紙(一)<1>記載の、被告黒岩が同<4>記載のとおりに発言し、原告の名誉を毀損したとしても、これらはいずれも論評を主題とする意見表明であり、公正な論評の法理により違法性が阻却され、被告らが不法行為責任を負うことはない。すなわち、公共の利害に関する事実又は一般公衆の関心事であるような事柄については、憲法に保障された表現の自由に基づいて、何人も論評する自由を有し、それが公的活動とは無関係な私生活暴露や人身攻撃にわたるものでなく、かつ、論評の域を出ないかぎりは、いかにその用語や表現が辛辣であろうとも、また、その結果として、被論評者の社会的評価が低下することになったとしても、論評者は名誉毀損による不法行為責任を負わないというべきであるところ、被告らの右各発言は、町政そのものないし町政と密接にかかわる重要な公共の利害に関する事実、あるいは町民のみならず広く一般の関心事となっている事柄についてのものであって、その前提事実には誤りがなく、原告の私生活の暴露や原告に対する人身攻撃にわたるものでもないのであり、また、用語や表現にも論評としての域を逸脱するところがないから、被告らは不法行為責任を負わない。

3 原告の反論

(一) 被告らの主張(二)(1)に対して

被告らの別紙(一)記載の各発言は、いずれも職務行為としてなされたものではないし、また、仮に、被告らの右各発言が職務行為に基づくものと認められるとしても、草津町のみならず、被告ら公務員個人も不法行為責任を負うと解すべきである。すなわち、民法上の不法行為においては、使用者が被用者の不法行為により責任を負うほか、被用者自身も直接に責任を負うとされているから、公務員の不法行為についてもこれと同様の扱いをすべきであり、また、被告らの発言は害意に基づいてなされたものであるところ、害意に基づく名誉毀損の場合には、加害者個人に賠償責任を負わせてこそ意味がある。

(二) 被告らの主張(二)(2)に対して

別紙(一)<2>記載の発言に係る事実は真実ではないし、被告らが真実であると信ずるのに相当の理由もない。すなわち、原告は、平成三年春、安斉課長に対し、飲食関係等の領収書を処分させることを念頭に置いて、「決算終了後、内容をチェックし、一部処分した方がよいのではないか。」と言ったにすぎないから、別紙(一)<2>記載の発言内容は真実ではないし、また、安斉課長は、群馬県から出向した職員で、信頼すべき職員であったから、原告において、廃棄する領収書等を逐一チェックするまでもなかったのであり、被告らが原告の弁解を信用せず、別紙(一)<2>記載の発言に係る事実を真実であると信じたことに相当の理由はない。また、別紙(一)<4>記載の発言は、単に「林帯整備費を職員旅行に流用した」などというものではなく、「明らかに作為的な不正であり」との言葉が用いられており、これは前記第二の二1(原告の主張)(一)の事情に照らして真実とはいえないし、また、真実と信ずることに相当の理由がないというべきである。

(三) 被告らの主張(二)(3)に対して

たとえ、別紙(一)<1>記載の発言が事態の推移を予想したまでのものであったとしても、この発言中には「懲戒免職」との用語が用いられており、これによって草津町の町民は予断を抱くのであって、原告の名誉は侵害される。

(四) 被告らの主張(二)(4)に対して

被告らの別紙(一)<1>及び<4>記載の各発言は、憲法の表現の自由により保障された批判、論評の域を逸脱しており、公正な論評の法理は適用されない。

三  争点

本件の争点は、<1>被告らが別紙(一)記載の各発言をし、その一部が被告らの共謀によるとの事実が認められるか、認められるとした場合、<2>それが原告の名誉を毀損するものであるか、原告の名誉を毀損するものであるとした場合、<3>被告らに真実性の証明あるいは公正な論評の法理による違法性ないし責任を阻却する事由が認められるか、<4>公務員である被告ら個人に損害賠償及び謝罪広告の義務があるかという点にある。

四  証拠《略》

第三  争点に対する判断

一  被告桜井の別紙(一)<1>記載の発言について(争点<1>)

平成七年七月三〇日発行の産経新聞群馬地方版には、被告桜井の発言として別紙(一)<1>の発言内容欄記載のとおりの記事が掲載されており(前記第二の一7)、原告は、右新聞記事の内容と、そのころ、草津町役場内で何度か記者会見が行われていたことを根拠に、被告桜井が右新聞の発行日の前日である同月二九日に草津町役場内で右記事のとおりの発言をしたと推論するものであるが、同月二九日は土曜日で、草津町役場の閉庁日であったこと、被告桜井は、同日ころ、電話による新聞記者からの取材があったことは認めているものの、みずから右発言をした事実はない旨供述していること、右記事を取材した新聞記者の氏名が特定されず、また、右取材の経緯や内容等に関する裏付けもないこと等にかんがみると、原告の前記推論はこれを採用することができず、いまだ被告桜井が右発言をしたと認めることのできる証拠はないというほかない。

二  被告らの共謀による別紙(一)<2>記載の発言について(争点<1>)

平成七年八月一日発行の読売新聞群馬地方版には、別紙(一)<2>の発言内容欄記載のとおりの記事が掲載されているが、そもそも右記事については発言者が特定されておらず(前記第二の一7)、また、右記事の前後の記載を見ても、これが被告桜井ないし被告黒岩の発言であると認めることは困難であり、他に被告らが共謀して右発言をしたことを認めるに足りる証拠もない。

三  被告らの共謀による別紙(一)<3>記載の発言について(争点<1>)

右発言の存在については、これを認めることができる何らの証拠もない。

四  被告黒岩の別紙(一)<4>記載の発言について

(争点<1>)

平成七年八月一八日発行の読売新聞群馬地方版には、被告黒岩の発言として別紙(一)<4>の発言内容欄記載のとおりの記事が掲載されているところ(前記第二の一7)、被告黒岩は、同月一七日開催の調査特別委員会を中断して行われた記者会見に出席し、同委員会委員長として右記事と同旨の発言、すなわち別紙(一)<4>記載の発言をしたと認めることができる。

(争点<2>)

そこで、右発言が原告の名誉を毀損するものであるか検討するに、同発言内容は、単に「流用は明らかに作為的な不正であり、思ったよりもひどいものだ」というにとどまり、発言自体からは、直ちに「流用」の主体が原告であるとして発言されたものと認めることはできず、原告の名誉を毀損するものとはいえない。

(争点<3>)

仮に右発言が、訴外協会において林帯整備費の不正な流用が行われたことについて、理事長であった原告に指導・監督上の責任があるとの趣旨を含んでいると認められ、原告の名誉が毀損される余地があるとしても、訴外協会は、草津町の開発計画に則って、必要な土地の確保、造成及び施設の建設、整備を行い、これらの施設等の管理運営を図って、町民生活の向上と町勢の発展に貢献することを設立目的とした公益法人であり、その会長には草津町長が、理事ないし監事には草津町総務部長、同事業部長、同企画課長等が就任し(前記第二の一の1)、草津町と極めて密接な関係にあること、また、林帯整備費は、群馬県から草津町に対して支出され、草津町が訴外協会に支出した公金であること(前記第二の一の3)、前記のとおり、被告黒岩は、調査特別委員会を中断して行われた記者会見に出席し、同委員会委員長として右発言をしたものであることなどを踏まえると、被告黒岩の右発言は、公共の利害に関する事柄について、専ら公益を図る目的で発言されたものであると認められる。そして、訴外協会においては、平成二年度から六年度までの五年間にわたり、一部を除き林帯整備費を予算に計上せず、また、理事会の決議又は承認を得ることなく、簿外処理した上、打ち合わせ費用、理事や職員の研修費、接待交際費等に流用し、これらを決算書にも計上しなかったのであり(前記第二の一の4)、このような財務ないし会計処理は、訴外協会寄付行為一九条、二五条等に違反していたと認められること、林帯整備に係る工事費や、流用に係る接待交際費等の領収書等の関係書類の大半が安斉課長により廃棄処分されており(前記第二の一の5)、このような関係書類の廃棄は、訴外協会会計処理規定一四条、訴外協会文書取扱規定一一条に違反していたと認められること等に照らせば、訴外協会が数年間にわたって林帯整備費を流用してきたことにつき、「明らかに作為的な不正」であると信ずることに相当の理由があったというべきであり、また、右発言当日の調査特別委員会では、原告及び草津町の前事業部長から参考人として事情を聴取したほか、林帯整備事業に関する県企業局と草津町との契約関係、訴外協会の施工した林帯整備工事に関する稟議書関係、更には草津町の支出命令書等の関係書類等をも調査した結果、当初予想された流用金額より更に多額になることが判明したことから、被告黒岩において、訴外協会の流用につき「思ったよりもひどいものだ」との論評を加えるのももっともな面があったといわざるを得ない。以上を総合すれば、被告黒岩の前記発言は、公正な論評として違法性がないというべきであり、仮に、間接的にせよ原告の名誉が侵害されることがあったとしても、被告黒岩は不法行為責任を負わないというべきである。

第四  結論

以上によれば、原告の本訴各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

別紙(一) 被告らの名誉毀損行為

年月日、場所、発言者、同席者、発言内容

<1>、平成七年七月二九日、草津町役場内、被告桜井、産経新聞記者、「百条委員会の調査結果次第で、議会が理事長や会長の懲戒免職を要望することは十分ありえる。」

<2>、平成七年七月三一日、草津町役場内、被告桜井 被告黒岩、読売新聞記者、「甲野理事長が議会の独自調査が始まった先月、領収書など工事関連書類の処分を部下に命じた。」

<3>、平成七年七月三一日、草津町役場内、被告桜井 被告黒岩、上毛新聞記者、「工事の請負についても、協会幹部が入札もしないで親しい業者などに依頼して工事費を浮かすなどしていた疑いがある。」

<4>、平成七年八月一七日、草津町役場内、被告黒岩、読売新聞記者、「流用は明らかに作為的な不正であり、思ったよりひどいものだ。」

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 板垣千里 裁判官 後藤充隆)

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